【青春交差点】
素直な想い。まっすぐな言葉。いつもどんなときも。ぼくはぼくらしく。
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ゆうや

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ゆうや二等兵であります!

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ゆうやくんと呼んで
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秋祭り
 
3日間の秋祭りが終わり、ぼくの町はやっと普段の平静を取り戻した。
しかし、ぼくは今年も不参加。
そういえば、中3までは積極的に参加してたんだよな。


「ゆうやは楽でええな」
「神輿の柄にぶら下がっとるだけやけん」
チビだから、そんなふうにバカにされてたなあ。(笑)


小6のときには、こんなことがあったぞ。
思い出した。


提灯行列をやっていて、ぼくと1年生の子3人が集団からはぐれてしまった。
提灯を持ってたから、役員のオジサンにすぐ見つけてもらったんだけど。


そのとき、オジサンがぼくに言った言葉・・・。
「低学年の子に1年生の面倒みさせたらイカンのう」だって!
そこで、ぼくは言い返した。
「おいちゃん!ぼく、6年生やけん」
オジサンはびっくりしていた。
「ホントか?小さいけん、3年生ぐらいやと思たで」
「・・・・・・」


今となっては楽しい思い出です。


秋祭り


 
2006/10/07 【 自分史なのかも 】 CM.4 . TB.0 . TOP↑
初めての記憶
 
保育園児だった頃、先生に質問された。
「おかあさんのお腹にいたときのことを覚えていますか?」
他のみんなは「気持ちよかった」とか、「あったかかった」とか、そうゆうふうに答えた。
いい加減な答えだとも思えるし、無難にかわいいとも思える。


が、ぼくの答えは違っていた。


「かあちゃんの骨が見えた。白かった」
我ながら憎たらしい答えだな。(笑)


胎児のとき、既に高い視力があったってことなのか?
ありえねぇ〜!!


もしそうだとしても、かあちゃんの骨が見えるなんてことは絶対にない。
まっ白い無の世界で、悟りの境地にいたんだろうか?
ますますありえねぇ〜!(笑)


いずれにせよ・・・
ちょっと変わった子どもだったんだな。
 
2006/07/22 【 自分史なのかも 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
Edge of 14 第4話
 
勝ち馬に乗って一矢を報いたはずの拳。
しかし、それは同時に祐太自身の心にも、簡単には修復できないヒビを入れた。

祐太は悩んだ。
「ケンカ弱いくせに、正義の味方ぶるな!」
マサヒロに言われた通りかも知れない。
弱い自分がイジメられっ子を救おうなどと、よくも自惚れたことを考えたもんだ。
祐太がしたことといえば、先生に告げ口をして助けを乞っていただけだ。
不良に媚を売る先生たちが、根本的な解決をしてくれるはずがない。
さらに、自分のせいで親友を暴力事件に巻きこんでしまった。
結局、自分ひとりでは何もできない。
もしもショージとキョージがいなければ、復讐が怖くて学校にも行けないだろう。

祐太が不良グループにリンチされた噂は、あっとゆう間に学校中に広まった。
噂には、思春期の男の子としては、とても耐えられない恥ずかしい尾ひれが付けられていた。
祐太の顔からは笑顔が消え、学校に行かなくなった。

迎えた期末テスト。
祐太はひとりだけ音楽教室でテストを受けた。
「進学校を目指す生徒が、テストをパスするのは非常にまずい」
担任の必死の説得に、しぶしぶ応じたのだ。
テストが終わると、また学校に行かなくなった。

ショージとキョージが答案用紙を祐太の家まで届けてくれたが、点数はどれも芳しくなかった。
総合順位が決まり、祐太は3番になった。
あの塾に通っているライバル2人に負けた。
リンチ事件でヒビが入っていた祐太の心は、もろくも砕け散った。
「ぼくの居場所がどこにもない」
祐太は学校生活に絶望した。

目の前でイジメが起きていても、見て見ぬふりをする生徒がほとんどであることを考えたら、祐太は十分勇敢だ。
成績にしても、次のテストで挽回すればよいことだ。
たとえ挽回できなかったとしても、悲観しなければならないような状況ではない。
だが、挫折を知らなかった14歳の少年には、あり余っているはずの希望の光が全く見えなかった。

梅雨が明け、学校は長い夏休みに入った。
登校拒否に陥った祐太の梅雨は、まだまだ明けそうになかった。
それでも、幸運なタイミングで夏休みが訪れたことだけは、どうやら間違いなさそうだった。


<ひとまず完>
2006/07/04 【 自分史なのかも 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
Edge of 14 第3話
 
ショージがすぐに戻ってきた。
少し距離を置いて、マサヒロたち7人が歩いてくる。
祐太はさっきの恐怖がよみがえってきた。
体育座りでオデコを膝に当てて縮こまり、小刻みに震える。
無残に汚れた祐太の背中をさすりながら、キョージが言った。
「祐太。ように見よれよ。ショージは強いで。一対一なら誰にも負けん」

祐太はこわごわ顔をあげた。
ショージ対マサヒロの決闘が始まろうとしていた。
ふたりは火花を散らし、にらみあっている。
マサヒロ以外の不良連中は、祐太とキョージのずっと右側にいて、体育館の壁を背にして見守っている。
決してジャマをしないとゆう紳士協定が守られるんだろうか?

空手の心得があるマサヒロのファイティングポーズは、憎たらしいけど決まっていた。
大柄なショージは柔道選手がよくやる「さあ来い」のポーズだ。
マサヒロの回し蹴りが1発、2発とショージのボディにヒットした。
ショージはびくともしない。
が、間合いを詰めようとするとマサヒロはパンチやキックを繰り出し、ショージを寄せ付けなかった。
祐太とキョージは声をからして応援した。
「ショージ!いけ!」
「がんばれっ!」
それはショージの耳に届いていた。

ジリジリするような数分間が過ぎた頃。
運動場全体を揺るがすような唸りをあげて、ショージが突進した。
「うおおおおっ!!」
マサヒロの強烈なパンチを顔面に何発も浴びながら、ついにショージがマサヒロを捕まえた。
取っ組み合いになれば、ショージのほうが圧倒的に強い。
あっとゆう間にマサヒロの上に馬乗りになり、両手で交互に頭を殴った。
顔をほとんど殴らなかったのは、相手へのせめてもの思いやりなんだろう。

「マイった!参りました」
マサヒロはたまらず降参した。
居眠りしていた空に向かって、ショージが拳を突き上げた。
「やったあ〜っ!」
祐太は痛みを忘れ、思わず飛び上がって喜んだ。
ショージの強さがまぶしくて誇らしくて、羨ましくもあった。

「祐太、こっちに来い」
いつの間にか、キョージがマサヒロを羽交い絞めにしていた。
「こいつを殴れ」
キョージの目には有無を言わせない迫力があった。
「いやあ、俺・・・そうゆうのはちょっと・・・」
祐太が尻込みすると、今度はショージが怒鳴った。
「なに言うとんじゃ!あんな目にあわされたんやろ。一発ぐらい殴ったらんかい」
祐太は一度もケンカをしたことがなかった。
もちろん人を殴ったことなどない。

マサヒロの手下6人は、いつの間にかいなくなっていた。
負けてしまった大将に用はないとゆうことか。
冷たいもんだ。
さっきまでの大将は羽交い絞めされて身動きできないでいる。
だが、祐太の弱気を見透かしたかのようにガンを飛ばす。
「どしたんや?チビ。よう殴らんのか?」
マサヒロが吐きかけた唾が祐太のシャツに当たった。

祐太は奥歯をかみしめて目を閉じた。
右の拳に力をこめた。
そして、目を開くと、すぐさまマサヒロの左頬を渾身の力で殴った。
マサヒロの体はキョージの手を離れ、地面に崩れ落ちた。
祐太は生まれて初めて本気で人を殴った。

「殴ったほうも痛いもんなんやな」
握りしめた拳がズキズキと痛み、祐太は胸が苦しくなった。
「祐太もなかなかやるじゃん」
親友ふたりが会心の笑みを浮かべ、祐太の肩を叩いた。
「エヘヘン」
慌てて裕太も笑ったが、その笑顔にいつもの力はなかった。


<続く>
2006/07/03 【 自分史なのかも 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
Edge of 14 第2話
 
6月半ばの放課後、祐太は不良グループに呼び出された。

祐太の学校は荒れていて、ひどいイジメが横行していた。
一部の不良グループが、大人しくて反抗できない男子を殴ったり蹴ったりするのは当たり前。
体操着をゴミ箱に隠されたり、油性マジックで顔に落書きをされたりする子もいた。
女子がいる教室内で「パンツを脱げ」と脅され、泣く泣く従った子もいた。
正義感が強い学級委員長の祐太は、イジメの現場を目撃するたび職員室に駆け込み、先生に知らせていた。
不良グループにとって祐太はジャマな存在だったが、祐太の親友のショージが滅法ケンカが強かったせいか、おいそれとは手出しできずにいた。
祐太にも「ぼくは大丈夫」とゆう慢心があったのは事実だ。

指定された体育館の裏に行くとすぐ、7人の不良が祐太を取り囲んだ。
リーダー格のマサヒロが言った。
「おまえ、俺らのこといっつも先公にチクっとるやろ。痛い目にあいたいんか?」
祐太は膝がガクガクと震えたが、辛うじて小さな声で言った。
「おまえらこそ、弱いもんイジメをやめたらどうや」
マサヒロは眉間にシワを寄せ、鋭い眼光で祐太をにらんだ。
「なんじゃと?ケンカ弱いくせに、正義の味方ぶるな!」
マサヒロが祐太の左肩を思い切り突き飛ばすと、小さな体は後ろによろめいた。
そこにいた不良に後頭部を小突かれ、これで堰を切ったかのように、パンチや蹴りでいじられた。

祐太は隙を見て逃げようとしたが、狭くて丸い壁を突破することができなかった。
マサヒロが放った一発の蹴りがみぞおちに入った。
祐太は息ができなくなり、前かがみに倒れこんだ。
「このまま死ぬかもしれない」
逃げようにも動かない体をさらに蹴られた。

祐太を見下ろしながら、誰かが言った。
「なに?こいつ。祐太、チョー弱い」
「これ以上はやばいでぇ」
「おう。今回はこれぐらいにしとくか」
ほっとしかけたが、それも束の間だった。
「もうやめるんか?全部脱がして、女の前でさらしもんにしょうや」
「ええなあ、それ。こいつ、ちょっと人気ある思て天狗になっとるけん、恥かかしたろ」
祐太は思わず身を縮めた。
「おまえら変態か?」
「ちがわい!」
「まあ、それは次の楽しみに置いといたらええが」
好き勝手なことを言ったあと、不良グループは立ち去った。

祐太は大きなため息をついた。
着ていた白いシャツと学生ズボンは、ぼろきれのようになっている。
立ち上がって泥汚れをはらいたい。
だが、痛みで動けないから、仕方なく仰向けになって空を見ていた。
体育館の屋根と塀に遮られた細長い空は、今にも泣き出しそうな灰色だった。

しばらくすると、大きな声が聴こえた。
「祐太っ!」
声の主は大の親友ショージとキョージだった。
「大丈夫か?マサヒロらにやられたんか?」
ショージが祐太の上半身を抱き起こす。
「うん・・・いてててっ!」
心臓が脈打つたび、祐太の体のあちこちに痛みが走る。

「バカッ!あいつらに呼び出されて、ひとりで出ていったらいかんが」
「話し合いでなんとかなる思たんやけど・・・マジで怖かった。死ぬんか思た」
祐太は恐怖から解放され、声をあげて泣きだした。
「祐太をこんな目にあわして、絶対許さんど!」
「俺らが今からカタキ討っちゃるけんのう」
「おおっ!やったろで」
ショージが泣いた。
キョージも一緒に泣いていた。

「よっしゃ!」
不意にショージが立ち上がって祐太を抱きかかえ、体育館の壁に背を当てて座らせた。
「キョージ、おまえはここに残って祐太を見よってくれ。俺はマサヒロを連れてくるけん」
ショージはマサヒロと一対一で決闘するつもりだ。
キョージが心配そうに聞いた。
「おう。ほやけど、他のやつらもついてくるんやないか?大丈夫か?」
ショージは不敵な笑みを浮かべて言った。
「たぶん」


<続く>
2006/07/02 【 自分史なのかも 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
Edge of 14 第1話
 
お盆を過ぎ、夏休みも終盤にさしかかったある日。
ひとりの少年が赤い自転車に乗り、溶けそうなアスファルトの上をスイスイ飛ばしていた。
町の中心部へと続く幹線道路沿いの広い歩道。
少年は参考書を買おうとして、本屋に向かっていたのだ。

薄っすら汗ばんだ体に向かい風が心地よい。
昨日までの絶望を吹き飛ばして、新しい自分に生まれ変われる。
そんな気がする乾いた風だ。

少年の名は祐太。
14歳の中学3年生。

祐太は超が3つ付くほどの優等生だ。
中1の1学期中間テストで学年トップに立ち、その後誰にもトップの座を譲ることはなかった。
悔しがった他のクラスの担任は、テストの順位が決まるたび、黒板に大きく「打倒!祐太」と書き殴り、受け持ちの生徒を叱咤激励した。
その異様な光景は、祐太のライバル数人が通う塾でも同じだった。

祐太の家はかなり貧しかった。
塾通いなんてとんでもない話で、参考書や問題集とも一切縁がない。
では、よほど特殊な勉強法をしているのかとゆうと、そうでもない。
いわゆるガリ勉タイプではないから、友だちともよく遊ぶほうだ。

父親が17歳、母親が16歳のとき、祐太は生まれた。
両親とも中卒で、漢字の読み書きすら満足にできない。
小学生の頃の祐太の成績は「中の上」だった。
それでも、近所では「親に似ん子ができたもんやなあ」と言われたものだ。
中学入学と同時に祐太の成績が急上昇すると、噂話もエスカレートした。
「トンビがタカを産んだ」とか。
「実の子とちがうんじゃないか」とか。
人の口はこれだから恐ろしい。

祐太がやっていた勉強法は、実は誰でも思いつきそうな方法だ。
しかし、誰もそれをしなかった。
祐太よりはるかに長い時間を勉強に割いている子より上位にいるとゆう現実が、どうにも不思議でならなかった。

その祐太が参考書を手にしたいと思うようになったのには理由がある。
忘れようと努力はするが、どうしても記憶の中から消し去ることができない大きな事件があったのだ。


<続く>
2006/07/01 【 自分史なのかも 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
切符とりの少年 第2話
 
祐太がフェリー岸壁に着いたとき、その日の相棒である菅野(37)は、既にタラップを船に近付けていた。
タラップは1人で動かしてはいけない。
それが決まりだ。
切符取りのペアがもう一組あるから、誰かに手伝ってもらったのだろう。


祐太と菅野がペアを組むのは初めてだった。
「遅れてゴメンなさい。今日はよろしくお願いします」
祐太は笑顔で挨拶をしたが、菅野はそれには答えず、ニコリともしなかった。
「祐太。おまえ、バイトのクセに重役出勤やな」
ずいぶんトゲのある言い方だった。
「違いますよ!こっち来る前にお客さんを先導しよったけん、遅なったんですよ」
祐太は口を尖らせて反論した。
「そんなんどっちでもええわい」
菅野はそう言うと、顔をシカメながらアゴをしゃくった。
タラップの反対側に付いていろとゆう指示だった。


祐太は目の奥がキュッと痛むのを感じた。
バイト先で受けた初めての冷たい扱いに、わがままで乱暴だった父親を思い出したのだ。


フェリーが接岸すると、乗客がタラップを降りてきた。
その両側で祐太と菅野は、乗船切符を回収した。
ときどき切符を持っていない客がいた。
「乗るときには持っとったんやけど、どこいったかわからんのよ」
そう言う客を、祐太は全て見逃してやっていた。
乗船時のチェックが厳しいことを知っていたからだ。
「あ、そうですか。しょうがないですね」
そのたびに祐太は、菅野が発するにらむような視線を感じていた。


何人目かの切符を持っていない客を素通りさせたとき、菅野から大きな声が飛んできた。
「切符持ってないお客さんには、カバンの中も探してくださいと言わなイカンがや!」
「はいっ!すみません」
祐太は素直に従った。
本来それが基本なのだ。
仕事の手を抜いている社員を見習ってしまっていたのだ。
「カバンとかポケットの中を、もう一度探してみてくださいね」
祐太はやんわりと言ってみることに決めた。


乗客全員が降りたあと、祐太の後ろには3人の客がしゃがみこみ、ガサゴソとカバンの中を探っていた。
そのうち夫婦と思われる中年カップルは、すぐにカバンの中から切符を発見した。
博美とゆう20歳ぐらいの女性だけが1人残された。
「切符が見つからなかった場合、所定の料金の倍額を払っていただきますよ」
菅野が冷たく言い放った。
「そんな・・・」
それを聞いたとたん、博美は泣き出しそうな顔になった。
しかし、すぐに気を取り直して、今度はところ構わずカバンの中身を並べていった。
たくさんの着替えの服、化粧品、洗面用具・・・。
コンクリートの上に白いバスケットシューズが置かれたときには、祐太は思わず胸が詰まりそうになった。
初恋だった女の子とペアで揃えたけど、今はもう捨ててしまった・・・。
あの白いバッシューと同じものだったからだ。


博美のカバンからは切符が出てきそうになかった。
菅野がこれからフェリーに乗り込む客を先導するため、先に事務所に戻る時間になった。
祐太はウエストポーチに集めた切符を菅野に手渡すとき、1枚だけを残しておいた。
菅野が立ち去ると、あたりに張りつめていた空気が一気に緩むのがわかった。


「ああ、もう見つからん」
博美がため息をついた。
「カバンの中にまだ荷物が残ってるでしょ?」
祐太が近付くと、博美は慌てて大きなカバンの口を閉めた。
「見んとって!男の子には絶対見せれん」
そう言われて、やっと祐太はカバンに残された物に思い当たり、顔を赤らめた。
「あっ、ゴメンなさい」
祐太はその場から飛びのいた。
「こっちこそゴメンね。仕事の足止めして。もう諦めよわい」
博美は広げた荷物をカバンの中に戻し始めた。


祐太はもう一度博美に近付き、そっと1枚の切符をさし出した。
博美は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、すぐにその意味に気づいた。
「えーっ!許してもらえるん?ありがとう!助かったあ。ホントにありがとう」
柔らかいオレンジの光に照らし出された博美の笑顔が、祐太には眩しかった。
「エヘヘ♪嘘つくような人には見えんけん、ぼくが特別に許してあげる」
はにかみながら祐太も微笑んだ。


関西への上り便は、たったいま乗客を降ろし終えたフェリーで、折り返し運航される。
その便に乗る客の行列が見えてきた。
祐太と博美は出口に向かった。
菅野の渋い顔が見えてきた。
祐太は行列の先頭にいる菅野にVサインをしながら、「博美から受け取った切符」を見せた。
そのとき初めて菅野が笑った。
ロバート・デ・ニーロみたいな顔で笑った。


「案外悪い人じゃないかも知れないな」
祐太はそう思うと同時に、後ろめたさも感じていた。
博美がちゃんと切符を買っていたとしても、祐太のとった行動が正しかったとは言えない。
さらには、いま隣を歩いている博美が不正な方法で乗船していたとしたら、会社に嘘をついたことになる。


仕事ってなんだろう?
与えられた使命を果たすためには、人を疑わなければならない。
人を信じすぎると、使命を完遂できないこともある。
大人の社会は厳しいもんだな。
菅野のおかげでそれはわかった。
逆をゆく人も確かにいるけれど。


どこで線を引いたらいいのか、まだ少年の祐太にはわからなかった。
でも、とりあえず博美を信じることにした。
きれいな目を100%信じておこう。
祐太はそう思った。


20060604190341


<完>


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