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SS「orbital period」 第3話
 
祐太には会いたい人がいる。
そして、祐太を待っている人がいる。


ユンにも会いたい人がいる。
そして、ユンを待っている人がいる。


あの日の約束は実現するのか?


いよいよ第3話、最終回であります。





「orbital period」 第3話





その年の暮れ。
満月の夜がやってきた。
午前2時。
祐太はボロロン号へと歩いていた。
冬の満月は天高く、いまだ傷ついたままの銀色の船を真上から照らしていた。


あのことがなければ、僕は今ごろ月で高校に通っていたはずだ。
宇宙旅行なんてしないほうがよかったのかな。
苦しいばかりなのに、ユンを思ってしまう。
あまりにも美しい満月が、祐太のため息を誘う。


そのとき!
祐太は不思議なものを見た。
薄水色のケーブルが、ボロロン号の船体から天に向かって
まっすぐに伸びていたのだ。
それが何なのか、祐太はつかんで確かめようとした。
しかし、つかめない。
目に見えるのに、さわることができなかった。


薄水色のケーブルは、細い光の糸だったのだ。
あの日、祐太とユンが抱き合い涙を落とした場所から、光の糸は伸びていた。
「もしかして・・・」
祐太は操縦室に飛び込み、力いっぱいの大声で叫んだ。

「ユンちゃーん!ユンちゃーん!聴こえるか。僕はここにいるよ」

だが、何回叫んでも応答はなかった。
やっぱりダメか。
祐太は諦めて、計器盤の修理を始めた。


 


SS「orbital period」 第3話…の続きであります!



 

1時間ほど作業に没頭していると、驚くほど鮮明な声が聴こえた。

「祐太くん!ユンだよ。ちゃんと聴こえてる。すごく元気そうで安心したよ。
今ね、祐太くんを見送った場所にいるんだ」

「ユンちゃん!やっぱりユンちゃんだったのか。君も元気そうだね。
ああ、もううれしすぎて、何から話していいかわかんないよ」

ユンからの返事は、また1時間後に届いた。
遠く離れた星との交信だから、音を伝えるのに時間がかかるらしい。

「祐太くんのことを思うだけで、ユンは元気になれるんだ。ありがとう。
それに、今日はまさか声が聴けるなんて、夢みたいだよ」

「ほんと夢みたい。えっと、僕の気持ちを伝えるのに時間かかるから
一番大事なことを先に言うね。ユンちゃん大好き!」

ユンからすぐに返事がないのが、もどかしい。
午前5時、ユンの声が泣いていた。

「うれしい・・・。ユンも祐太くんのこと、大好きです」

「船をなおしたら、必ず会いにゆくよ。
何年かかるかわからないけど、待っててくれるよね」

また1時間後、ユンの声が届いた。

「うん。何年でも待ってる」

「1日も早くユンと会えるようにがんばるぞ」


祐太とユンの会話は、そこで途切れた。
真っ暗だった東の空が紫に変わり、徐々に青く染まっていった。
ボロロン号から伸びていた光のケーブルは消えてしまって
もう二度と見ることができなくなった。


それは、たった一度だけ実現した満月の夜の奇跡だった。




クリックすると巨大化します!




宇宙暦3010年、夏。


初めての宇宙旅行から3年4ヶ月。
18歳になった祐太は、完全に修理を終えたボロロン号に乗りこんだ。
操縦室の窓から外を見ると、優次が大きく手を振っている。
祐太は小さく手を振り返し、祖父に深々とお辞儀をした。


めざすは、ユンちゃん星。


祐太は元気よく、離陸のレバーを引いた。




【おわり】





【第1話へ戻る】

【第2話へ戻る】









画像は「壁紙宇宙館様」よりお借りしています。
ありがとうございます。

 
【Hide More】
2007/11/25 【 SS(初恋の風景など) 】 CM.22 . . TOP↑
SS「orbital period」 第2話
 
しあわせな日々を送る祐太とユンでしたが…。
青春はそんなに甘くはありません。


では、さっそく第2話です。
どうぞ!!





「orbital period」 第2話





あっとゆう間に1ヶ月が過ぎた。
ふたりの未来は永遠だと思っていた。




しかし、運命の神は、異星人同士の愛を許してはくれなかった。
祐太の持病が悪化し、治療のため地球に戻らなければならなくなったのだ。
祐太はユンのそばを離れるくらいなら、ここで死んでもかまわないと思った。
その一方で、地球で待つ優次のことが気がかりだった。


ユンは別れを決意した。
祐太の命のためである。


別れの日。
ふたりは最初で最後のキスをした。

「約束するよ。必ず会いにくるからね」
「うん。待ってる」

互いの頬を伝う涙がひとつになって、ボロロン号にこぼれ落ちた。


 


SS「orbital period」 第2話…の続きであります!



 

クリックすると巨大化します!




傷心の祐太は、なんとか地球に帰還したものの
最も難しい着陸の段階で操作を誤った。
幸い祐太は命を取りとめたものの大ケガを負い、ボロロン号は大破した。
病院でやっと意識を取り戻した祐太の目に、優次のやさしい顔が映った。

「じいちゃん・・・」
「おお!目を覚ましてくれたか。おかえり」

「ごめんなさい。僕は、僕は、何もかもダメにしちゃった」
「船はなおせばいいし、高校は浪人するのが嫌なら、地球の学校へ頼んでみるよ」

「なんか全部申し訳なくて・・・。
僕がいるばっかりに、じいちゃんの人生が台無しだよね」
「おいおい、失礼なこと言うなよ。
そりゃ楽じゃないけど、祐坊がいるから毎日笑えるんじゃないか」

「ホント?」
「ああ、ホントだ」

優次は祐太の頭をなでた。
小さい子どもをそうするように。




約2ヶ月の入院生活を終え、祐太は全快した。
高校へは進学しなかった。
優次の工場を手伝いながら、高卒認定試験を目指すことにした。
中学の同級生の多くは、祐太を噂して笑った。
祐太は平気だった。
1日も早くボロロン号を修理して、ユンに会いにいくために選んだ道なのだから。




星のきれいな冬の夜。
ボロロン号を修理していた優次が、部屋で寝ている祐太を呼びにきた。
時刻は午前2時を少し回っていた。

「え?じいちゃんはこんな時間まで仕事してるの?」
「バレたか。まあ、そんなことはいいから、ちょっとおいで」

ボロロン号の操縦室に入ると、通信装置のスピーカーから小さな音が聴こえた。
それは誰かを呼んでいるような、女の子の声のように思えた。
昼間なら聴こえないだろう。

「あっ!!これは・・・ユンの声だ」
「知ってる子なのか?」
「うん。まちがいない。ユンちゃーん!僕の声が聴こえるか?」

祐太は何度もユンらしき相手に呼びかけてみた。
でも、応答はなかった。
スピーカーからの音も、次第に聴こえなくなってしまった。

「宇宙を旅したとき、好きになった子なんだ」
「祐坊にも好きな子ができたのか。そうか、そうか」

「別にそんなんじゃないよ」
「ワシはどんなとも言ってないんだけどな」

「ああ、もう。恥ずかしいじゃん」
「はい、はい」

恋をしている孫に優次は目を細め、微笑みかけた。


次の夜も、その次の夜も・・・
祐太は毎晩ボロロン号の操縦室に行ってみた。
が、あの夜以来ユンの声は聴こえなくなった。
それでも、深夜の操縦室修理は祐太の日課となった。
「ユンの声がまた聴けるかもしれない」
ほんのわずかな希望がそうさせたのだ。




【第3話へ続く】

【第1話へ戻る】









画像は「壁紙宇宙館様」よりお借りしています。
ありがとうございます。

 
【Hide More】
2007/11/25 【 SS(初恋の風景など) 】 . . TOP↑
SS「orbital period」 第1話
 
BUMP OF CHICKENのニューアルバム「orbital period」とは
果たしてどんなアルバムなのか。
シングル曲の配置とアルバム曲のタイトルを見て、想像してみました。


すると、こんなショートストーリーが浮かんできました。
1ページにすると長すぎるから、3話に分けました。


では、第1話からどうぞ!





「orbital period」 第1話





地球人は自家用の宇宙船で、自由に宇宙を行き来できるようになっていた。


宇宙暦3007年、春。


ひとりの日本人少年が、宇宙船ボロロン号に乗りこみ宇宙をめざした。
少年は15歳、名前は祐太。


幼い頃に両親を失った祐太は、祖父の優次に育てられた。
優次は宇宙船メーカーの優秀な技術者だった。
しかし、優次を育てるためにあっさりと退職。
生まれ故郷の海辺の町で、小さな宇宙船修理工場を営んでいた。


優次は修理の仕事の合い間に、スクラップにされた宇宙船のボディや
部品をつなぎ合わせ、オリジナルの宇宙船をつくるのが唯一の趣味だった。
10年の歳月を要して、ついに完成したのがボロロン号だった。
船の名前こそ謙虚そのものだが、全身全霊をこめた自信作である。


そんな優次の愛情を一身に浴びながら、祐太はのびのびと育った。
月にある銀河系ナンバーワンの高校への進学も決まった。
タイミングよく、ボロロン号はそのお祝いのプレゼントとなった。
祐太は小躍りして喜び、春休みを利用した宇宙旅行に出かける許可を
ちゃっかり取り付けた。


そして、暖かな春の日を選んで、祐太は元気に旅立つことに決める。
優次は成長した孫の姿を見て満足そうに頷きながら
ボロロン号が見えなくなるまで見送った。


 


SS「orbital period」 第1話…の続きであります!



 

クリックすると巨大化します!




祐太の旅は順調だった。
給油のために、小さな星に立ち寄った。
名前もない小さな星だが、優次から指定された星だったのだ。
その星で、祐太は同い年くらいの少女と出会う。
火の鳥のように輝く不思議に美しい少女だった。


「俺、地球から来た祐太。君の名前を教えてよ」
「ユンと言います。祐太くんは中学生?」

「うん。でも、もうすぐ高校生だよ。君は?」
「もうすぐ高校3年生になるんだ」

「俺より年上なのか」
「年上じゃダメなの?」

「いや・・・そうゆうわけじゃ・・・えへへん」
「笑ってごまかさないの!」

「えっとねえ、ユンちゃんはどんな音楽聴いてるの?」
「地球の音楽。BUMP OF CHICKENとか」

「うっひょ〜っ!俺もバンプ大好きなんだ」
「ホント!?どの曲が好き?」

「今は宇宙を旅してるから、天体観測がいいな」
「あ、その曲ユンも大好き!」


すぐにふたりは恋に落ちた。
祐太はユンと出会ったその星に、自分だけの名前をつけた。
ユンちゃん星・・・なんのヒネリもない恥ずかしい名前。




【第2話へ続く】









画像は「壁紙宇宙館様」よりお借りしています。
ありがとうございます。

 
【Hide More】
2007/11/25 【 SS(初恋の風景など) 】 . . TOP↑
恋のプラットホーム
 
初めて彼女がぼくの部屋にやって来た。


3日前から片づけをして、掃除もして、とにかく準備万端。
「はじめまして」と明るく挨拶した彼女を見て、かあちゃんもひと目で気に入ったみたいだ。


ぼくの部屋で、彼女が聴きたいと言っていたバンプのCDを聴いた。


「アルバムが見たいな」と彼女が言った。
何冊もあるアルバムを次々とめくるうちに、だんだん彼女が無口になった。
そして、ついには泣き出してしまった。
びっくりしたぼくが「どうしたの?」と聞くと、「私の写真が1枚もない」と言う。


「今度君が来るときまでに、新しいアルバムに貼っておくからさ」
苦笑いしながら言ったけど、彼女は首を横に振る。
「わたしは写真もプリクラも、全部ぜんぶ大切にしてるの」
「うん…」
「この前、ちゃんと貼ってくれたって言ったでしょ?」
「それはまあ、その…いろいろ忙しくてさ。えへへ」
突然降ってわいた災難に、ぼくはなす術がなかった。


女の子ってずいぶんナイーブなんだな。
そんなことを思いながら黙っていると、彼女がすっくと立ち上がった。
「帰る!」
「えっ!?ちょっと待てよ」
さすがに慌ててしまったけど、まさかそれが本気だなんて思わなかった。


しかし…。
「嘘つきは嫌い」
彼女が言った。
「俺の気持ちも知らないくせに…。俺もおまえなんか嫌いだよ」
ぼくも言った。
言ってしまった。


「お邪魔しました」
玄関で彼女の声がしたあと、ドアが閉まる音がした。


 


恋のプラットホーム…の続きであります!



 

かあちゃんが部屋に紅茶とケーキを持ってきた。
「あれ?もう帰っちゃったの?さてはケンカでもしたんだね」
図星だった。
「うん。まあ…」
16ビートでイライラしているぼくを見れば、わかるだろう。


「女の子ってね、男の子よりもアルバムを大切にするんだよ」
「………」
「ちゃんと謝って、それでも許してもらえなかったの?」
「………」
かあちゃんは開いたままのアルバムを見ながら、ひとり言のようにつぶやいた。


「まだ間に合うんだけどな。電車の時間に」
「うん!」
ぼくは大きくうなずいた。
自転車に飛び乗り、駅までぶっ飛ばした。





人影のない駅のホームの中ほどに、ぽつんと彼女がいた。
すぐそばまで近づくと、やっとぼくだと気づいた。


「さっきはごめん。君のこと好きなのに嫌いだって、また嘘ついちゃった」
ぼくが謝ると、彼女はそっと立ち上がり、ぼくの肩に頬をうずめた。
うっひょ〜っ!マジっすか?
「ごめんね。わたしのほうこそ憎たらしいこと言って、ホントにごめんなさい」
ぼくは心臓をバクバクさせながら、涙ぐんでいる彼女をそっと抱きしめた。
周りをキョロキョロ見渡して、誰もいないことを確かめる。


そして、抱きしめた両手に力をこめた。


「痛い…」
「わっっ!ごめん」


秋の優しい太陽が、ふたりを見つめて笑っていた。






「恋のプラットホーム」クリックすると巨大化します!
(PCでご覧の方は、写真をクリックすると大きくなります)





【あとがき】


恋愛詩『僕らがケンカをするわけ』を書くとき、思い浮かべたショートストーリーです。

作り話のようであり、実話のようであり…。
かなりいい加減なストーリーです。

でも、いずれにせよ、こうゆう女の子は大好きであります!



写真は伊予鉄道高浜線の梅津寺駅です。
ドラマ「東京ラブストーリー」最終回のロケ地になりました。
ホームの看板にはこう書かれています。



1991年(平成3年)フジテレビ系で放送されたテレビドラマ

舞台は東京。主人公・リカ(鈴木保奈美)とカンチ(織田雄二)
のストレートな恋愛を繊細に描いたラブストーリー。
最終回、目印のハンカチを結んだ駅のホームに、梅津寺駅が
ロケ地として使われました。それ以来、リカにちなんでハンカチを
結ぶ人が絶えず、「恋のプラットホーム」と呼ばれています。
90年代を代表するドラマのひとつ。



 
【Hide More】
2007/10/12 【 SS(初恋の風景など) 】 CM.58 . . TOP↑
初恋時代2
 
空も飛べれば、海だって歩ける。


『初恋時代2』は、そんな14歳同士のカップルの初恋ショートストーリーです。
元々は恋の詩『初恋時代』のあとがきとして書き始めました。
しかし、あとがきとしてはあまりにも長くなったので
独立したひとつのSSとして残しておこうと思ったわけです。


時系列順では『初恋時代2』のほうが先であり
その後で『初恋時代』の心象風景にたどり着きます。


では、どうぞ!











【初恋時代2】





前田祐太は14歳の中学2年生。
同じクラスには、幼なじみの蔵本江梨子がいた。
ふたりは保育園の頃から、ずっと大の仲良しだった。
しかし、中学1年の後半あたりから、祐太は江梨子を避けるようになり
江梨子にとって近寄り難い人になってしまった。


嫌いになったわけじゃない。
祐太は、子どもの頃から常に近い場所に存在してきた女の子を
異性として見てしまうことに対して抵抗を感じていた。
思春期ゆえのある意味偏狭な純情によるものだろう。
要するに、江梨子が好きであることを素直に認められなくなっていたのだ。


あの出来事があるまでは。



 


初恋時代2…の続きであります!



 

夏休みが終わり、2学期が始まった。
クラスの席替えが行なわれ、祐太は江梨子のすぐ後ろの席に決まった。
「わあ!祐太くんだ。よろしくね」
江梨子は振り向き、無邪気に微笑んだ。
だが、素っ気なく「ああ」とだけ答えた祐太を見て、悲しそうに前を向いた。


ズル先生の地理の授業が始まった。
「ズル」とは地理の教師のあだ名である。
黒板に文字を書きなぐってはすぐに消す。
生徒がノートに書き写していようがいまいが、全くお構いなしだ。
当然のことながら、毎回生徒から「えーっ!」と不満の声があがる。
どうやらそれが快感らしく、黒板消しを右手に持ったままニヤリと笑う。


彼がズルと呼ばれるわけは、そんなズルイやつだからだ。
が、それだけじゃない。
彼の風貌が、ゴルバチョフ元ソ連大統領に似ているからでもあった。


油断が許されないズルの授業を懸命にノートにとっているときに
祐太のシャーペンの芯がなくなった。
しかたなく赤ボールペンで書くと、ノートは真っ赤になった。


地理の時間が終わったあと
祐太は江梨子に芯をもらうために声をかけようとした。
だが、なんと呼んでいいのかわからなかった。
昔のように「えりちゃん」と呼ぶのは恥ずかしい。
苗字で呼んだら、さっきのように悲しい顔をされそうだ。


そこで、祐太は赤ボールペンを使って、江梨子の左上腕部を軽く叩いてみた。
そのとき、ボールペンの先端から芯が出たままであることに気づいた。
あわてて引っこめようとしたが、江梨子が振り向くほうが早かった。
セーラー服の左袖に、2センチほどの赤い線が付いてしまった。


「なあに?」
江梨子は気づいていないどころか、うれしそうだった。
その笑顔を曇らせるのがいやで、祐太は謝るタイミングを失った。
それなのに、ちゃっかりシャーペンの芯はもらう。
「俺もズルにちがいない」
祐太は自分が情けなかった。





翌日。


「おはよう」
江梨子は元気に教室に入ってきて、先に登校していた祐太に挨拶をした。
「おはよう」
祐太も珍しく元気に挨拶をした。
セーラー服の左袖が気になった。
赤ボールペンの跡は薄くなってはいるが、まだ残っていた。
「洗濯しても落ちなかったんだな。早く謝らなくちゃ」
申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。


江梨子の左隣の席にいる亀田が、江梨子に話しかけてきた。
「昨日と同じ服だよな。洗濯とか毎日しないの?」
亀田とゆう男子は不良とゆうわけではないが
思ったことをズケズケ言うやつで、典型的なクラスの嫌われ者だった。
もっとも本人には自覚がない。


「えっ?どうして」
突然の意地悪な質問に、江梨子は怪訝な顔をした。
「蔵本さんの左袖に付いてる赤いボールペンの跡、それ昨日からだよな」
女の子のクセに不潔だと言わんばかりの指摘だ。
「あっ!なんでこんなところに…」
江梨子は狼狽し、今にも泣きだしそうになった。


「やめろよ!」
祐太が席から立ち上がった。
「赤い線は昨日より薄くなってる。俺にはわかる」
「どうしてわかるんだ?」
勢いこんだものの亀田に切り替えされて、一瞬返事に困った。
「それは…それは…」
「テキトーなこと言うから答えらんねぇじゃん」
祐太は唇をかみしめながら、あざ笑う亀田を睨みつけた。


「それは…きのう俺が付けちまった汚れなんだ。江梨子、ごめんな」
「いいの。気にしないで」
どさくさ紛れともいえる謝罪だった。
しかし、江梨子はうれしかった。
久しぶりに祐太が、自分の名前を呼んでくれたからだ。
セーラー服の小さな汚れなど、どうでもよかった。


「祐太…おまえ、必死だな。蔵本さんが好きなのか?」
「ああ。好きだ。好きで悪いか!」
祐太ははっきりと言い切った。
売り言葉の千倍以上の値打ちがある買い言葉だった。


「チビのくせに色気づきやがって」
亀田は独り言のような捨て台詞を残すと、舌打ちしながら廊下に出て行った。
祐太はわざと聞こえないフリをして、江梨子を見た。
「あぁあ、全部バレちゃった。えへへ…」
照れ笑いでその場をやりすごすしかなかった。


その日一日、ふたりは一言も話さなかった。
いや、話すことができなかったのだ。





放課後。


祐太がサッカーの部活を終えて教室に戻ると、そこに江梨子がいた。
「まだ帰ってなかったのか?」
「うん。ここで宿題しながら、祐太くんを待ってたの…」
西の窓から射しこむ夕日が、江梨子の頬を紅く染めていた。


「じゃあ、一緒に帰るか?」
「うん。でも、着替えなくていいの?」
「いいよ。このままで」
祐太はユニフォーム姿のまま教室を出て
長い廊下を下駄箱に向かって歩き始めた。
江梨子は大急ぎで荷物をカバンに詰めこみ、後を追った。


「あ、そうだ。宿題やったノート、貸してくれよ」
「だめっ!」
「ケチ!」
「ダメなものはだめなの!」
江梨子のノートの欄外には、震える手で書いた祐太の名前とハートマークがあった。
それを見られたくなかったのだ。


校門を出て、海辺の通学路を歩く。
赤い夕日と残光の青が、明日への元気を与えてくれる。


「なんか変な一日だったけど、忘れられない一日になるね」
夕焼け空を見あげながら、祐太が言った。
「そうだね」
江梨子も同じように空を見あげた。


2本の飛行機雲が、ちょうどよい角度で交差していた。
ふたりにはそれが、「ZUTTO」のイニシャル「Z」に見えた。






「ひこうき雲」クリックすると巨大化します!
(写真詩はクリックすると大きくなって、きれいになります)

◆ケータイ版はこちら

 
【Hide More】
2007/09/30 【 SS(初恋の風景など) 】 CM.42 . . TOP↑
追憶 ―つらい過去を抱きしめて―
 
明日プロポーズをしようと決めたのに、悪い夢を見た。
ぼくが結婚から逃げていたホントの理由がここにある!


◆1995年、夏。


「俺たち、大人になったら絶対結婚しよう」
「うん!ずっと離さないでね」
高校1年生の少年と少女は、永遠の愛を誓い合った。


「好きだ」と言えば、未来の全てが美しく見えた。
「結婚」とゆう言葉を口にすれば、永遠を夢見ることができた。
いま思えばあまりにも幼い・・・遥かな夏の日の約束。


ふたりは保育園時代からの幼なじみだった。
少女が経済的に恵まれた家庭に育ったのに対し、少年のほうはお世辞にも裕福とはいえない、どちらかとゆうと、貧しい家庭に育ったのだが、なぜか少年のそばにはいつも少女がいた。
中2の夏、少女のほうから告白したことにより、異性としての付き合いが始まった。
お互いの両親からも公認されていた仲で、恋の行く手を阻むものは何ひとつないはずだった。


◆1995年、秋。


少年の母親が家出をし、その3週間後には父親も帰宅しなくなった。
両親がそれぞれ新しい恋に走った挙げ句、少年はひとり家に取り残された。
少年からそのことを打ち明けられたとき、少女はまるで自分のことのように嘆き悲しんだが、それでも少年に対する思いが揺らぐことはなかった。


◆1995〜1996年、冬。


少年の家庭が崩壊した事実を少女の両親が知るところとなり、ふたりは引き離されていく。
少女に課せられた門限が極端に厳しくなり、別々の高校に通っていたふたりは、登下校時以外には会うことができなくなった。
休日の外出も親同伴でなければ許されなくなり、クリスマスどころか、冬休み中は一度も会えなかった。


さらに年明けからは、少年がCDショップでバイトを始めたため、下校時に同じ電車で帰れるのは彼のバイトがオフである水曜日だけとなった。
少女は親にウソをつき、文化系のクラブ活動を始めたので「毎週水曜日は帰りが遅くなる」とゆうことにした。
また、少女は少年の顔をひと目見るために、毎日CDショップに通った。
仕事中の少年と長く話すことはできないので、前夜綴った手紙を胸に抱き、彼に手渡すのが日課だった。
手紙には思うように会えない切なさやもどかしさ、ときには挫けそうになる少年を強く励ます文章が、涙の粒で綴られていた。
深夜まで働いている少年が返事を書くことはあまりなかったが、たまに書いてくれる「おまえが好きだ」の7文字が楽しみで、少女は毎日手紙を書き続けた。
高校生が当たり前のようにケータイを持つようになるのは、まだ何年もあとのことで、当時ポケベルが全盛期だったがふたりとも持っていなかった。


◆1996年、春。


少女の身体に大きな異変が・・・。
生理が止まり、母親に見抜かれた。
親の言い付けに背いて密会していたことも、エッチをしていたことも全部バレてしまった。
少年は少女の家に呼び出され、彼女の父親に頭や頬を思いきり殴られた。
当然のことながら、あらゆる罵声を浴びせ掛けられた。


大事な娘を傷モンにしやがって、どうしてくれるんだ!
まだ高校生のくせに、とんでもないガキだ!
親が親なら、その子もこのザマか!



少年はうな垂れ、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ以外になかった。
が、それでも必死に食い下がった。


ぼくたち大人になったら、必ず結婚するって約束してたんです。
ぼくが学校をやめて働けば、やって行けると思います。
だから、赤ちゃんは堕ろさないで・・・お願いです!



そうゆうふうに言えば全て許してもらえると、ぼくらは考えていた。
しかし、現実は厳しく冷たかった。


生意気なことをぬかすな!
おまえみたいなヤツに、誰がかわいい娘をくれてやるもんか!
娘とは二度と会ってくれるな!



首根っこをつかまれて外に放り出された少年は、もはや取り付く島がないことを悟り、悔し涙を流しながら、夜が明けるまで絶望の淵を歩き続けた。


1週間後、少年のもとに少女から手紙が届いた。



ゆうやくんへ・・・


2年8か月、付き合ってくれてありがとう。
ゆうやくんと一緒に過ごした毎日は、本当に楽しかったです。
今でもゆうやくんが大好きですが、もう会うことができなくなりました。
理解のない親でごめんなさい。
親に逆らうだけの勇気がなくてごめんなさい。
ゆうやくんだけを傷つけて、本当に申し訳ない思いでいっぱいです。


学校の先生になる夢、がんばってかなえてくださいね。
きっとゆうやくんなら、みんなから好かれる先生になれると思います。
そして、どうかしあわせになれますように。


あと、妊娠はしてなかったです。
昨日生理になったから、中絶させたとか、そうゆう心配はしないでね。


では、お元気で・・・さよなら。


江梨子より



その後、ぼくはいくつか恋をしたけれど、江梨子ほど好きにはなれなかった。
いや、このときのように傷つくことが怖くて、好きにならなかったのかも知れない。
ただ逃げていただけかも・・・。


明日、ぼくはさやかにプロポーズをする!
昔つらい経験をしたからこそ、いま彼女に優しくできる。
そう信じている。
だから、今度こそ必ず!

 
2005/02/08 【 SS(初恋の風景など) 】 CM.0 . TB.0 . TOP↑
15の夜 ―ひとりぼっちのHoly Night―
ぼくはクリスマスが好きじゃない。
その理由は…
日本中で1ヶ月も前からお祭り騒ぎをしているわけで、なんだかみんな一緒に踊らされているような気がして、好きになれない。
・・・と言ったら、カッコつけすぎか?

ホントのことを言うと、そんなことじゃない。
15のときのイヤな思い出があるからだ。

11月14日に母ちゃんが家を出て行ったあと、最初のうちワーワーと騒いでいた父ちゃんも静かになり、3週間ほどすると帰ってこなくなった。
ぼくはとうとうひとりぼっちになっちまった。

ぼくには当時、中2の頃から付き合っていた同級生の彼女(ただし高校は別々)がいた。
その年のクリスマス☆イブの日はちょうど日曜日。
ぼくの部屋に章二と恭二も呼んで、4人でパーティをする計画を立てていた。
ありがたいことに、みんなでぼくを励まそうとしてくれていた。

けど、世間が狭い田舎では、個人のプライバシーが保証されることはない。
噂はあっとゆう間に広がり、親がふたりともいなくなった事実に加えて、ぼくがすっかりグレちまって「どうやら高校を中退するらしい」とゆう尾ヒレまで付いて、クリスマス直前に彼女の母ちゃんにも伝わった。
それは単なる噂なんだと、彼女が必死になって弁解してくれたから、すぐにでも「別れなさい」とゆうことにはならなかったが、「交際を続けるには好ましくない子」だと常識的な判断をされた。

彼女に課せられた門限が厳しくなり、いったん帰宅してからの外出は禁止になった。
毎日のように会ってはいたけど、下校のときに駅で待ち合わせをして、電車の中で数十分だけのデートだった。
たまには海の近くの駅で途中下車して、寒いのに砂浜を歩いたりもしたっけ・・・。
しかし、危険な週末(?)には家を出してもらえなかった。

イブの前日、ぼくは彼女に言った。
「明日は絶対俺んちに来いよ!」
クリスマスだからきっと特例を認めてくれるはずだ、と甘く考えていた。
「うん。お母さんを必ず説得するから、待ってて」
彼女のほうも同じ気持ちだった。

イブの当日。
約束の時間から1時間が過ぎ、2時間待っても、彼女が来ない!
「まあ、そのうち来るよ」
「テレビゲームでもしようぜ」
そう言いながら、章二と恭二とぼくの3人が、はしゃいでいたのは最初のうちだけだった。
だんだん無口になるぼくに遠慮して、母ちゃんが贈ってきてくれたケーキにも手をつけないまま、親友ふたりは気をきかせて帰っていった。
寂しくやるせない、ひとりぼっちのHoly Night。

ぼくは窓を開け、無数の星できらめく聖夜を見上げた。
隣の家は大盛り上がり大会の様子で、大音響のカラオケの音と住宅地には相応しくない嬌声がこっちにまで届いてきた。
ぼくはなにもかもイヤになり、一瞬、裏のドブ川にケーキを投げ捨ててやろうかと思った。
けど、やめた。
ぼくを置いて出て行ったけど、それでも大好きな母ちゃんからのプレゼントだから、捨てるなんてことはやっぱりできなかった。

ぼくは机の上にケーキを置いた。
銀のスプーンでケーキをすくい、ひと口食ってみた。
そのとたん、涙が溢れ出してきて止まらなくなった。

志望校に進学できて、不仲だけど両親も健在で、一人前に彼女もいて、親友もいて・・・。
ぼくはそれ以上の幸せなんて、なにひとつ望んではいなかった。
それなのに・・・どんどん不幸の坂を転げ落ちてゆく。
15歳のぼくにはどうしていいかわからず、怒りのような哀しみをこらえることができなかった。

ぼくは机の上に伏せて、長い時間泣き続けた。
泣き疲れて顔を上げると、彼女にプレゼントするつもりだったハート型ロケットペンダントの箱が、涙でかすむ目に止まった。
机の上で行き場を失い、寂しげだった。
流行っていたわけじゃないけど、それぞれの写真を入れて交換し合おうとゆう他愛のないものだった。

同じ頃、彼女のほうも、ぼくにプレゼントするはずだったペアのペンダントを胸に抱き、涙にくれていた。
それからぼくらは次のクリスマスを迎えることなく引き裂かれ、互いの初恋に幕を下ろすことになった。
9年前のイブ・・・そんな出来事があった。





1秒でも早くキミに会いたいのに、配っても配っても減らない荷物。
ぼくはもうオシッコがチビリそうなほどに焦りまくりながら、こんなことを思い出していたんだ。


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【クリスマス☆ツリー】

 
2004/12/24 【 SS(初恋の風景など) 】 CM.0 . TB.1 . TOP↑
  
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