ぼくは父ちゃんに抱っこされた記憶がほとんどない。
昔、ジイちゃんや母ちゃんもそうゆう話をしていたから、たぶん間違いないのだろう。
抱っこどころか、父ちゃんが「ぼくのことをかわいいと思ったことが一度でもあるんだろうか?」と疑ったりもする。
小学生の頃のぼくは、あまり成績がよくなかった。
けれども、運動神経だけはよくて、スポーツ万能選手だった。
特に中学を卒業するまではずっと学年一の俊足だったから、運動会のかけっこで負けたことは一度もない。
町別対抗リレーと学級対抗リレーでは「常連」とゆう形容にとどまらず、「運動会☆永久欠番」とか「町民栄養失調賞」レベルの賞賛を受けていたものだ(…たぶん!)
さらに、走る姿は廻し車で遊ぶハムスターのごとくキュートじゃなくて、すばしっこいし・・・(これだけは思いっきりジマン!)
しかし、ぼくにはリレーで一度だけミジメな思いをした経験がある。
それは、小5のときの運動会。
事件は午前最後のプログラム、町別対抗リレー予選のときに起きた。
予選は2組で6チームと7チームが走り、それぞれの組の上位3チームが午後の決勝に進める。
4年生の子からバトンを受けたとき、ぼくらのチームは7チーム中5位だった。
優勝候補筆頭のぼくらだったけど、3年生と4年生のバトンタッチのときにバトンを落とし、それを後続の選手に蹴っ飛ばされたため、大幅に順位を下げてしまった。
それでも、5年生のぼくと6年生の先輩で逆転できる!
町内の人たちみんながそう信じていた。
バトンを受けたぼくは、第2コーナーを曲がったあとの直線で、前を行く2人を抜き去り、この時点で3位に上がった。
そして、第3コーナーから第4コーナーにさしかかるところでは、ついにトップをゆく選手に並びかけた。
しかし・・・。
ぼくのすぐ左後ろにいた3位を走る子が、ぼくの左肩のあたりを右手で強く引っ張った。
体重が軽いぼくはバランスを失い、観客席までふっ飛んでいった。
すぐに気を取り直して走り始めたけど、もう挽回できる距離は残されてなくて、結局6位で先輩にバトンを渡した。
6年の先輩ががんばって3人を抜き、なんとか3位に滑り込み、ぼくらは午後の決勝戦へ進むことができた。

〓ゆう坊が通った小学校の校舎〓昼食の時間になり、ぼくは母ちゃんと父ちゃん、それに大好きなジイちゃんと子分衆が陣取っている場所へやってきた。
「ゆう坊、大丈夫か?」
「どこも痛いことないの?」
ジイちゃんと母ちゃんは笑顔でぼくを迎え、カッパ頭をなでてくれた。
「転んじゃったあ・・・エヘヘヘ。でも、ケガはしてないけん大丈夫!決勝はゼッタイがんばって優勝や」
ぼくは泣きだしたいぐらい悔しかったけど、町内の人たちもみんなが応援してくれていたので、なんとか気を取り直そうとしていた。
ジイちゃんの膝の上に座り弁当箱を開けると、父ちゃんがぼくを呼んだ。
「ゆう!ちょっとこっち来い」
父ちゃんはぼくを校舎の陰に連れて行った。
父ちゃんはこの日、朝から酒を飲んでいて、酒臭い息でこう言った。
「あのザマなんや?フウが悪い!決勝でコケたら、今晩家に入れんぞ。わかったか!」
十分傷ついている息子に対し、親がゆう言葉だろうか?
「え?でも、あれは後ろのヤツに引っ張られたんや。ぼくがコケたんやないよ」
ぼくが初めて負けた・・・その原因なんて言わなくても、父ちゃんにはわかっていてほしかった。
だから、言い訳をせず次の決勝でがんばると言ったのに・・・。
「競ったレースになったらなあ、あれぐらいのことしてくるヤツはナンボでもおる。こかされた(転ばされた)おまえがトロイんや!」
ショックなひと言だった。
「でもね・・・」と言いかけたぼくに、父ちゃんはさらに意地悪なことを言った。
「さっき席に帰ってきたときもなんや?すぐにおジイの膝の上に乗って!まだ赤ちゃんなんか?親のとこには全然寄り付きもせんクセにのう」
ぼくは父ちゃんから一切愛されてないことを知り、その場に体育座りをしてうずくまり、ひとりで泣き続けた。
しばらく泣き続けていると、ジイちゃんと母ちゃんがぼくを見つけてやって来た。
ぼくは父ちゃんに言われたことをふたりに話した。
「普通の親がそんなことゆうか?」
ジイちゃんは怒りで肩を震わせていた。
そして、何食わぬ顔で席に戻り酒を飲んでいる父ちゃんに向かい、あたり構わず大音響で怒鳴った。
「おまえはそれでも親か!ゆう坊を慰めてやったもんやと思とったら、逆にケナしてどないするつもりや!こらっ!」
普段から父ちゃんは、ジイちゃんに頭が上がらずにいた。
ジイちゃんに怒鳴られてその場に居づらくなった父ちゃんは、さっさと家に帰ってしまった。
午後の決勝戦。
ぼくは3位でバトンを受け、今度は余裕でトップに立ち、先輩にバトンを渡した。
もちろんチームもそのまま優勝!
小5のときの運動会で、そんな出来事があった。

〓俊足を飛ばしたグラウンド〓
懐かしいなあ・・・ぼくは父ちゃんに結婚の報告をするため、今夜遅くに電話を入れた。
「父ちゃん、ぼくは来月結婚することになりました」
「ほうけ。よかったのう。で?」
父ちゃんは明らかに迷惑そうに、そう言った。
「あっ、いや・・・」
ぼくが言葉に詰まっていると、
「お祝いがほしいけん電話してきたんか?」
意地悪な性格は、どうやら昔と全然変わってないようだ。
「結婚することを連絡したかっただけです。じゃあ、お元気で・・・」
ぼくにはそれしか言えなかった。
父ちゃんに向かって「ありがとう」とゆう言葉は、どうしても出てこなかった。
ハートせつなく、悲しい気持ち・・・。
マリッジ☆ブルーなんかじゃなくて、
マジ★ブルー★レンジャー・・・・・・になりそうだ。